収縮

伸びるというのは健やかで窓辺に置いた豆苗がそれぞれ高さもばらばらに伸びているのを見ると生きている感じがする。周りのドライフラワーやガラス器やヘンテコな自作の陶器たちもそれにつられて生きているような感じがする。それはおそらく大きな窓から朝の…

desiderium

ふと口から漏れた言葉が「共鳴している」人伝てにでも探し物をしたわけでもなくただ降りてきたただ言葉となって繰り返されないただ一語をあなたは繰り返す 色の溢れたゴテゴテした場所ではなく無機的な部屋がいいのは交わるものに色が付いていないから目を閉…

in silence

手と手が重なり両胸を温める。温もりは去らなかった 秘密が重なって繋がれて行く。箱を開けて二人だけのものにする 言葉のない夜の時間。灯りをともせば口元がほころぶ 交わした言葉の上に立って沈黙する。足元を見ることなく 差し込む光に貫かれる。眼裏にも

夢を見ていた。道に立っていて何かを待っていたらそこは中華料理店に入る列になっていてそのまま入ってしまい3500円のコースを二人分頼んだ。あの人を待っている。なかなか来ない。随分待っていた気がする。結局来たのか来なかったのか、夢はもうあやふやに…

grey

灰色の本を手に取る時 灰色の風景がひろがる 色はまやかし、まやかしは現実 冬の水たまり 薄く凍った面に灰色の空がひろがる ある日の雪が 全ての面を隠匿する

naked

自然であるとはどういうことか。生まれ落ちたままの姿で微笑んでいる。化粧は剥げひどい顔だけれど、安らか、平穏、愛に満ちた時間というものがそのまま表れている。そこに生まれ落ちたかのように。過去も未来もない、ただその時間がある。何かを身につける…

あさ

あしたに鴉が鳴くという 夢の錘も眠たげに 風見鶏たち巡らせて ひとつ吐息を吐くという 朝靄に消えていった針鼠 怒った太陽の影法師

火の玉

水底に沈んだ欠片が浮かび上がるようにぼっと灯される火は そこら辺の草を噛んだ苦い味 暖かいのに冷たくて握りしめることも叶わない 投げ捨てた鏡の欠片が時折鋭く光るたび 一条の線が刻まれて心臓は傷だらけになった風に 見えましただから今でも心をしんと…

大崎

何も書く必要がないような気がするところをあえて書いてみるとどうなるのか。大概はそんな書き方をしている。今といえば即席チゲ鍋を食べて暖房の効いた部屋で汗ばむほどだが冬もようやく本番となりまだベッドの中にいる時にザクザクと霜柱を踏む音が聞こえ…

atmosphere

東京駅前の商業ビルの上、金曜の夜の始まりのほうの時間でこれから確実に騒々しくなることが決まっているレストラン階。ネオンでも煌めくんじゃないかと思う。それぞれの店の境界も曖昧なオープンフロアだから色々な食べ物や匂いや音も混ざり合う。通路に並…

寓話

二人は愛し合っていた。片方が死に片方が生き残った。彼/彼女は生き続けた。彼/彼女は何度も思い起こされた。しかしその頻度は減っていった。色はだんだん褪せていった。最後の葉が一枚落ちるように記憶は途切れた。消えたのではなく意味をなさない。落ちた…

そば

昨夜はスパークリングを空けた。一昨日はワインをたくさん飲んだ。たぶん換算すればボトル1本くらい。今日はさすがに飲まないでおこう。というか寝ている。爆弾低気圧が通り過ぎるらしい。眠い。今朝は妙な夢を見た。夢は大抵妙なものだから現実的なものだと…

ロンド

後ろで中国人が騒いでいる。何かを言葉にしている 鳥が船と並行する。二つの 物体は進んでいる。急激な高まり 嘴が掠めたような気がした。餌を 歓声のような言葉。鳥の翼 楕円形の湖をどう進んでいたのか。船が 鳥がどこへ消えた行ったのか。島へ 誰もいない…

eternal

翳りゆく影も降り注ぐ光もそこに留まろうとしない 波の音は永遠のようで立ち去るべき時が来る 踏みならされた草はら 夢から覚め起き上がり日差しに手をかざす 体の跡を地面に残し 日常へ戻る時も夢の後を引きずっている 波間に立ち昇る声 耳を澄ませば 永遠…

柔らかいもの

ひやっとするガラスも都市の中では柔らかい。通り抜けできるかのように私を映す。後ろには反復する通行人。何度も通り過ぎた場所。その度に自分の姿を確認する。切り取られた景色は機械の中に放り込まれる。柔らかいもの。アスファルトの道端で咲く真っ赤な…

最後の詩

それだけのことなのだから、人よ、私の廻りにゐる人達よ、銘々お家に帰りなさい。 ラフォルグ「最後の詩(Ⅵ 簡単な臨終)」 愛されないからだなど簡単に滅びてしまうがいい 自分で愛せないからだなど

寝ている時に無意識にネグリジェを破いてしまい片方の乳首が露わになっている。無意識にというのは破いたことを覚えているのだから矛盾してる。寝ている時も正確には寝ぼけていた時か。おそらく何か不快感を感じて。 昨日今日とやけに現実的な夢を見た。ある…

焼き魚

昨日はパンが食べたくてスーパーでたくさん買ってきて食べた。今日は焼き魚が食べたい気がする。一人だとなかなか魚を一匹焼いたりしない。そうなるとどこかへ食べに行く必要がある。ちなみに今はベッドに横たわっている。寝巻きのままである。昨日パンをた…

マドレーヌ

梅雨末期の大雨に真夏のような暑さ。昨晩はぐしょ濡れのように帰ってきて即シャワーを浴びた。 濡れそぼる君の袂の滴をば枯らすものなら秋も憂きもの もうすぐ生理の予定なので早めに休み期間とする。わりあい働けたから。というところで注文した古書の「失…

さまよう物語

矛盾に満ち、野蛮で、不安定で、漂うような物語のことを、プリニウスは「さまよう物語」と呼んだ(『博物誌』第五巻三十一章)。それはまた、最後の王国でわたしが実践する、王のごとき人生でもある。 パスカル・キニャール「静かな小舟」 履き慣れないサンダ…

匂い

耳元に顔を寄せれば私の匂いがする。情景の繰り返し。 子供の頃行った海水浴場の潮の匂い。他の海ではそんな匂いはしなかった。目でもなく耳でもなく、結び付いた記憶が身体中に満ちる。見えないもの、聞こえないもののほうがより大きな体積を持つ。 耳元に…

雨滴

雨音が家を打っている。部屋の中だから濡れることはないけれど、家の様々な部分に当たりその分いろいろな音を響かせるから、ちょっと煩いよう。強すぎるので心地よくない。窓を見れば木の葉が風に揺れている。静けさには影があり、それが詩なのだというよう…

ハチミツ

Tさんは足を噛む。足の裏、踵。噛むというか齧るというのか。甘噛み、といっても少し痛いくらい。ふくらはぎ、太もも。内腿を噛まれるとかなり痛い。でも後で内出血になってたりすると愛おしくなる。噛み跡よ。下から上へと唇と舌が辿る時の恍惚。ベロベロ舐…

ASAP

金曜の夜少しだけ声を聞けた。例えば毎晩夜が更けるまで長電話するとかそういうことはできない。土日はラインが来ないこともあるし会う可能性はゼロなので、金曜の夜はとりわけ寂しい。だから声が聞けて、話せてよかった。 欲情、痴情。今朝仕事の勉強になる…

赤い灯

赤い灯にともって消えた あいつの肺を屠ってやろう フラスコガラスのあいた口には お前の息の根ぶち込んで 隠者は水も火の中も歩く 熾火は名残り惜しきもの 赤い灯 我ゆえに 赤い灯 我ゆえに あの子のレモンも唇も 永遠に染まらじ 赤き灯に

スパスム

煮えたぎる鍋に放り込まれたおが屑の せんびょうたりとも燃え尽きぬ 夢の浦島ましろな髪も とぐろを巻く蛇 絡みついた 粘液質の細胞が包み込むかの そり立つ塔をくわえやも 烏鳴けど離さぬくわらだ いみじくもほすほす 浴す汗ながむれば ピントの合わない顔 …

サクラ

土日とも雨。桜が満開になると花散らしの雨というものが降る。それはいいとして天気が悪いとどうも体調が思わしくない。昨夜は10時前にベッドに入ったのに起きたのは8時近くで今日もとっくにエネルギーが切れている。だからこんなにダラダラ書いてるわけには…

the end in sight

そこには花もない。春の風の吹き込む窓もない。あるものと言えばなにもない。薄茶色のカーペットの上を行ったり来たりする。ただヒソヒソ話のつもりなのか、空っぽの空間に響き渡る。部屋にずっといるのよ。全然出てこない。ただ歩いてる。一歩にも満たない…

only connect

伊勢丹の地下という既視感のある待ち合わせでワイン売り場の中、背中から出会う。振り返るとその人がいて同じようなことででも全く違う。日々の営みも時間も出来事も繰り返されただ少しだけの違いのようでまた新たな生を生きている。プログラミングされた遺…

a piece of cake

混じり合っているように思える。全く別個の物体なのに。体なのか心なのか、どこかの一部になっている。苦痛でも快楽でもなく、ただ不可思議。ただそこにいるのに隣にいないのが不思議、といつか送られてきたように。何枚か数えもしなかったプリントたちを、…