in silence

手と手が重なり両胸を温める。温もりは去らなかった 秘密が重なって繋がれて行く。箱を開けて二人だけのものにする 言葉のない夜の時間。灯りをともせば口元がほころぶ 交わした言葉の上に立って沈黙する。足元を見ることなく 差し込む光に貫かれる。眼裏にも

grey

灰色の本を手に取る時 灰色の風景がひろがる 色はまやかし、まやかしは現実 冬の水たまり 薄く凍った面に灰色の空がひろがる ある日の雪が 全ての面を隠匿する

あさ

あしたに鴉が鳴くという 夢の錘も眠たげに 風見鶏たち巡らせて ひとつ吐息を吐くという 朝靄に消えていった針鼠 怒った太陽の影法師

火の玉

水底に沈んだ欠片が浮かび上がるようにぼっと灯される火は そこら辺の草を噛んだ苦い味 暖かいのに冷たくて握りしめることも叶わない 投げ捨てた鏡の欠片が時折鋭く光るたび 一条の線が刻まれて心臓は傷だらけになった風に 見えましただから今でも心をしんと…

ロンド

後ろで中国人が騒いでいる。何かを言葉にしている 鳥が船と並行する。二つの 物体は進んでいる。急激な高まり 嘴が掠めたような気がした。餌を 歓声のような言葉。鳥の翼 楕円形の湖をどう進んでいたのか。船が 鳥がどこへ消えた行ったのか。島へ 誰もいない…

eternal

翳りゆく影も降り注ぐ光もそこに留まろうとしない 波の音は永遠のようで立ち去るべき時が来る 踏みならされた草はら 夢から覚め起き上がり日差しに手をかざす 体の跡を地面に残し 日常へ戻る時も夢の後を引きずっている 波間に立ち昇る声 耳を澄ませば 永遠…

最後の詩

それだけのことなのだから、人よ、私の廻りにゐる人達よ、銘々お家に帰りなさい。 ラフォルグ「最後の詩(Ⅵ 簡単な臨終)」 愛されないからだなど簡単に滅びてしまうがいい 自分で愛せないからだなど

赤い灯

赤い灯にともって消えた あいつの肺を屠ってやろう フラスコガラスのあいた口には お前の息の根ぶち込んで 隠者は水も火の中も歩く 熾火は名残り惜しきもの 赤い灯 我ゆえに 赤い灯 我ゆえに あの子のレモンも唇も 永遠に染まらじ 赤き灯に

スパスム

煮えたぎる鍋に放り込まれたおが屑の せんびょうたりとも燃え尽きぬ 夢の浦島ましろな髪も とぐろを巻く蛇 絡みついた 粘液質の細胞が包み込むかの そり立つ塔をくわえやも 烏鳴けど離さぬくわらだ いみじくもほすほす 浴す汗ながむれば ピントの合わない顔 …

void

すり替えられたグラスの 間に挟まれたチョコレート クモの巣の隙間から 滴る水音 七回連続回転した パンダの目の縁 不可侵条約を過信した 岩は砕け散り 転がってきた石を拾った 手の中の 石は流星 だったかつて卵を割ろうとして めり込んだ親指を咥え 割り込…

六日目

清廉潔白の何としぞ山に茸を取りに行くか ふるへてふるへてふるへてfの腰らへん 五日目の夜に取り出だしてみれば遥かなる絶頂 踏まれたく思ふひととのふいになる約束など最初から 赤きものPCに繋いで充電されるのを待つてゐる 赤光を開いて数ページ 伏せるカ…

光と声

何を恥じることがあるのか しかし恥じるのだ 雨に打たれ、熱いシャワーを浴びる時も 天雷の鳴り響く夜に 照らし出される顔のように 青白く、こめかみは脈打ち こぶしを握った手の開く時 薔薇の匂いが通り過ぎて 血が伝ったような気がした 噛み締めた塩気の …

体を触る。触れられればいいのに。あなたの手で。刻一刻と変わっていく体を、たどっていく。乳房は、なんと柔らかいことだろう。何のために。ふくらみのやさしさ。女同士が口づけを交わす。唇が辿ったかもしれない、稜線を。眠りの中に忘れてしまった、あな…

sicut cadaver

きりきり舞い きりもみ 体ごと何処かへ 打ち寄せる しかばねの 避けられるだろうか 踏まれるだろうか あるいは鴉に まだ温い 砂のようなシーツ うとうとしている腕や背中を指でなぞる。その手首にはゴールドの華奢なブレスレットの鎖が揺れて光るのを見なが…

白日

さよならと手を上げる。そこで記憶が終わっている ロックを外す仕草をしたその手で記憶が終わっている 手を握り一瞬強く握りしめたその感覚で終わっている 堆積した時間も刻印された時間も一瞬の風で吹き飛んでしまうのでは それでも相変わらず計り難い重さ…

piano diary

どこまで行っても辿り着けない 辿り着かない だいぶ遠くまで来てしまったようだけど まだ向こう側もあるようで、果てしない 歩みの数だけ遠のいたと思ったら すぐ傍にいたり 手の中にいたり 掴もうとすればひらひらと 蝶のように飛び去る 木々は騒めき、葉は…

赤ん坊

あなたのために生まれてきた 触れる喜び 曇りなき眼で見据える宙 写しとる影 歓声のうちに足を蹴る 見えないもののために 握った指先 握られた手の柔らかさ 潤んだ目で あなたを見つめる

euphoria

すはだかにショール わずかな桃色にいろさし とおるすきまはぜ ぬきあしくつおん とんかちにちようだけの もっこうざいくして みみすましむおん とうふうりのみ さやうなら きはだのざらり くわうおやゆび もものしたうえ ひゃっこうのしたえ まどろまどろの…

寄りかからず

ひとり立つことは孤独なることと思う朝 書店に染み渡っていく月の光は揺らぐごと 歯噛みするように食べる皿のフランス料理 美味しくないフレンチなどあなたのもの味わいたい コンビニで買って濁す腹のうち ひとり立つ歩く跳ねる部屋のうち 店も相性と言うあ…

joy

ガラス瓶に入れたヒヤシンスの 水があっという間に枯れていく 花を咲かすということは それだけエネルギーを使うことなのだ ボンベイサファイアの瓶に挿したラナンキュラスは 白みを帯びて硬直している しわしわになった花弁の声のように 部屋に流れるモーツ…

叫びとささやき

私は叫ぶ 赤い部屋で 真紅のビロードの 埃が吸い集めた 声の残像 深い眠りの 血塗られた揺籠 白き衣擦れ ささやきのカーテン 赤、赤、赤 赤で画面が埋まっていく。染められた。街中で注意喚起が図られる。なんと溢れていることか。血は普段隠されているのに…

永遠回帰

永遠回帰 あの人は形を変えない アフロディテの頭部 全てを見尽くしたその目は盲目 盲目の光 欠損は余剰となる 分子へと消えた欠損が永遠の 永劫の光となる 映し出された分身が融和をはかる あなたと、あなたに落ちる影と 言葉にならなかった言葉の しまい込…

klepsydra

気圏にさまようあの構想の魂が彼を襲った。彼は夢の共和国を、詩の主権領土を宣言した。何万エーカーとかの地域、森のあいだに投げ込まれた布切れーーそこに彼は幻想の専制を声明した。・・・・・・狼や盗賊に追われた人は砦の門に辿り着けば救われる。勝利のなか…

ある日のパイ包み

狭苦しい街道沿いの安ホテル 行き場のないてふてふ 転げ落ちた生首 撥ねられた青首鴨 パンで掬い取られた 滴る粘液 舌下の赤茶色 拭う手の甘い肌色 微かな口中に香るファロスの匂い 悲鳴を渇望するシモーヌの匂い 寸断されたテープ お決まりの台詞 さよなら…

胎内時計

時は刻まれる 胎内のそのうちで カーブしか無いその中で 水の音を聴いている 聴こえない音を 見えないものを ゆらぐゆらぐ 壁の光を指差す 私はあなたと 触れ合っている 目眩のする螺旋階段 落ちて水底 みなそこに 集う輩が一斉に見上げる 北極星 冷酷も慈悲…

北へ

飛行船の目指す方角は 北へ 白い林檎をかじったら 北へ 円い目をした門番をくぐり抜けたら 北へ 暑くて窓を開ける 曇った息が飛び去る 北へ もう見る必要はないのだから 重なる手は冷たく温かく こぼれ落ちる水は掴めず みぞおちまで埋まってしまった 喧騒は…

絵画

開いた口から声が出る 音のない 重なった手が擦り合わされる 闇の中で 蹴り上げた馬 並んだ木々 止まった海 か細い線描の裏に滴る血溜まり そこかしこに穴 失われた汗 開かれた口に手を入れた 戻っておいで 手を引く母子 振り返り見上げた 聖母の目 声なし声…

ひとり

私はひとりになりたい わたしは二人になりたい 夜の帳が下りるなか どなたの声も聞きたくない ドアからドアへ行けるなら あなたのもとへ行きたいけれど 夜のしじまを聴いていたい お酒とともに! 氷が鳴れば あなたの合図 私の心が鳴った合図 同時に、シンク…

天使の落下

天使の落下 生まれ落ちてから落下し続ける イメージの深淵へ 立ち上る煙幕の向こう 見開き閉じられた目で 触れようとする泉 歩かないで 走らないで 落下の速度は計り知れない 落下するものたちが見える 絶望した人たち 還っていく あの場所へ 水底の瞳 ヴェ…

何を体が欲しているのか

レシートを見て確認する また6杯 銀座の夜は心地いい 5杯で調和、6杯で破綻 階段の上で振り返る 変な格好だったかしら 酔っ払いだと思われたかしら カウンターのいつもの端っこ 引き戸の向こうの厨房では どんな秘密が行われてるのか ひょっと白服の男が氷を…