a whole cake

盛大な勘違いにしろあの人には愛してると言えた。今はそこまで好きな人はいない。その時も別に呼び名はなかった。僕の彼女になって下さいみたいなことを言われたような気がするが、向こうはどう思っていたにしろ私にとっては特別な人。さゆりちゃんと呼んでくれる人。楽しい思いさせてくれる人、あり得ないほど気持ちよくしてくれた人、たくさん同じものを食べて口と口で交換した人、いつも手を繋いでくれた人。Tさんだって手を繋いでくれるけど、まだそんなに甘えられてない。あの人のほうが年上で背も高かった。Tさんは子どもはいるんだろうか。私が何をしてるかも聞かれないからこちらも聞くのをためらう。
愛してる、と言えたのはやさしかったから。私はただの彼女でも。かえがたい。かえがたいという言葉をこの前使った。ああ、豊島美術館での体験のことだった。Tさんとなにかしらのお店でお酒を飲むのも、なかなかかえがたい時間。時間は刻一刻と消え去るが残された記憶は重なっていく。積み重ねた時間が、同じ空気感というような表現をしていた。同じものを食べるように、同じ空気も吸っている。見えない口移しみたいなもので。
旅から帰って、まだ4日しか出勤してないのにもう精魂つきた。女の生理は厄介でいろいろなものを狂わせるから。幸いというか予約の入る前に出勤を取り止めできた。血道が走るような心地。血の味がしてくるような。でもまだ茶色いものがつく程度。苦しくて眠くてでも眠れなくてパウンドケーキを丸ごと食べてチョコレートも一袋食べた。余計に苦しくしてどうするんだろう。仕事の合間にデートもしたしたくさん歩いたし、疲れが一気に出たような。いろいろなものを狂わせるから。昨夜はとても満足して酔いの残る中ちゃんとお風呂入って髪も洗って寝たのに。おじさんがたくさん褒めてくれるからいい気になって。
美人できれいで中身もきれいで。おじさんはただのお客さんなのに。好きじゃなきゃ会わないけど。みんなただの好きな人。そうだ、愛は与えるものだった。でもおじさんとデートしてあげたのは与えることになるのかしら。多少打算もあるけれど。Tさんとは大人の遊びをしている感じ。明日、映画に行けるだろうか。隣同士無言の二時間を過ごす。何か実験的。毎回新しいことが起きる。ああ、なんでケーキ丸ごとなんて食べてしまったんだろう。
楽になりたくて