前夜

去年のこの日、葉山の一色海岸へ行っていた。豊饒の海へ導かれるように。遠い海の記憶。あれがたった一年前のことだなんて。
今は海の、波の音ではなく秋虫の合唱が聴こえる。公園ではもう彼岸花
紺の麻のワンピースの記憶。波が足を洗っていった。
悪夢のような病院の記憶。
そんなものは遥かかなたに置いてきた
四人部屋。カーテンは皆閉ざされていて声だけ聞こえる。この部屋も手術までの間だけだけど。
食事がけっこうおいしかった。ちゃんと味がして。
眠れるのかな。
あと二時間ほどで消灯。