そこにいて、そこにいない

お腹の痛くなった夜、帰りの電車で別れ際、手を握って口付けた、その手は私のようで私でない。そのシーンを繰り返し思い出す。前の席に座っていた女性はちょっと戸惑ったような顔をしていた。気のせいかもしれないけど。
夜中に車の中でしばらく握られていた手。遠い日のことを目の前のように思い出す。不安とやさしさと、混ざった記憶。
体のどこにキスされてもうれしいけど、手の甲へのキスは敬いの感情が含まれてるようで特別な感じがする。実際、敬意や忠誠を表すものらしい。
それが一瞬の故意ではないほとんど無意識だからこそ、私はなんども思い出す。意識の中にあなたという無意識の謎が流れ出す。
それが溶けるとあなたの指が恋しくなる。