月夜

ビルの一階で落ちる滝。月の絵を見て夜の降りてきた東京駅でちょうどよく欠けた月が出ていた。バスに飛び乗り虎ノ門へ。バスはたまにしか乗らないからワクワクする。夜の車窓。ビルに入れば白けたように明るい。下に水が溜まってるようだけど、どういう仕組みになってるんだろう。水飛沫もない、一枚のカーテンのような滝。喉がカラカラだったのでカフェに入り小さなカヌレを選んで珍しくカプチーノを飲む。他に誰もいない。帰宅時間帯のわりにそんなに人がいない。やっぱりまだ在宅も多いのだろうか。ラインが来て、見回すと向こうにMを見つける。

知らなかったけど、本店はとても有名なお店らしい。なに食べる?と聞きながら足はそちらへ向かっている。いっぱいかなと思ってたらすんなり入れた。焼きとんて初めて食べるかも。クチコミを読んでいたからレバーとかピーマンの肉詰めとか。半生のレバーが驚くほどおいしい。他の串もとてもジューシー。もっとガヤガヤしてるのかと思ったら、隅の二人がけのテーブルで、間近に向き合う。今日は下はジーンズ。とても自由な職場らしい。面白そう。

明るい店内。さっきの月はどこ行ったかな。レバーを追加して、赤ワインと食べる。お酒のメニューも随分豊富だ。この前よりもくだけた会話。今日はこの後のバーがメインだから。の割に満ち足りた食事。こんなに調子が良くていいのだろうか。

カウンターに席をあけて男が三人。おそらく常連なのだろう。でも少し奇妙な光景。暗すぎてメニューを見るのも苦労する。チョコレートとカクテルのペアリング。山椒、イチジクの葉、ブルーチーズのチョコレート......勉強になると何度も言うのが面白い。香りを嗅ぐ仕草が優雅でいいなと思う。バカラのグラスに小さなオイルランプの灯り。ここに月はない。薄闇でゆるく流れる時間は退廃。目に見えないものについて話をする。心地いい空虚。空虚なのに充ちていく。

満悦。確かにそうだ。怖いくらいに

動物の挨拶みたいに匂いを嗅ぐ。手を握ってみる。さようなら。

楽しかったですか?

その一言だけで余韻が残る。香りはMのように言葉にできないけれど、自分に向けられたその一言だけで、消えない香り