はじまりの夜

楽しいことがたくさんある。おいしいものがたくさん食べれて、いろんな人と話ができる。写真も撮ってもらった。美術展で本物を見た。本を読んで異空に潜り込んで、口には甘いものを運ぶ。夜のお店で口にいれたもの。口と口を合わせて真っ暗な空洞が繋がる。帳は下ろされ暗闇の中手探りで刻まれた傷跡。仕留めた獣を眠らせるために、夜の中に封印するために。世界の起源。黒々とした毛と豊かな肉に隠されて、覗かれるのを待っている。

 

ひとに写真を撮ってもらうのはすごく久しぶりだ。ふっと浮かんだから、赤をテーマに撮ってもらおう。真っ赤な、血の色のワンピース。夜の街をさ迷い歩いたワンピース。着ない時期もあったけれど、今でもたまに着たくなる。小さなカメラだったからあまり身構えずにいられたのだろうか。セルフの時はカメラと場所と、行ったり来たりして確認しながら撮るけど、これはずっと、何かを探しながら、レンズの向こうの目に晒されているのに自分を見つけていくような。どんな、角度で?ああ、やっぱり顔がまるい。この腫れはほんとに引くんだろうか。お腹はぷにぷに。反省。

 

私は眠ってしまったほうがいい

そのほうがよくものが見えるから

 

 わたしたちは夜の中を生きていた。

 わたしたちは水の中を生きていた。