setouchi

鏡に映ったその目は獲物を狙う目をしている。攻撃態勢。流れているのはいつものグールドのモーツアルトピアノソナタだけど。優雅ないつもの朝。あるべきものがあるべき場所にある、いつもの部屋。自分の部屋。9日間の一人旅で私はどんな目をして、海や街やモノや人を見つめてたんだろう。じっくりと鏡を見る余裕もなかった。夜はいつも酔っ払っていた。日焼けか酒か、化粧しない顔はいつも赤かった。日常に戻り、この旅はなんだったのか考える。行く前は帰ってきたら少し逞しくなっていると思っていた。だけれど変わらない、早速ナーバスになっている自分がいる。何のトラブルもなく、むしろラッキーなことが多かった。フェリーやら路面電車やらいろいろ乗ったけど、ひたすら歩いた。雨の日が一日もなく、ひたすら日射しを浴びた。日射しの記憶、歩いた地面の、足の記憶。湖面のような瀬戸内の海を滑るように進む船の記憶。

あの海はなんだったのか。

離れる陸、名前もわからない島々。上のデッキで風を切り運ばれる、私という体。

四国から本州に戻る時、少し身がちぎれそうだった