銀座

同じワンピースで同じく髪をアップにして同じ銀座の違う路上でキスされる。そんなことはどうでもいいのに。朝から雨。朝食を終えた頃にTさんからラインが来る。欠けていたものが充ちる気がした。つくづく後朝の文は大事だと思う。朝までいたわけではないけれど、随分長いこと同じ時間を過ごした。完全に同じ時間というのはあり得ないけれど、共有した実感がある。ラインの最後には、私がシャワーを浴びた後目の前の鏡で体を確認しながらちょうどいいかどうか聞いたのが、とても可愛く愛おしく感じた、と。単に意見を求めただけのような、でも向こうはそれが自分の好きな体か訊ねたように聞こえたらしい。確かにそんな意味もあったかもしれない、と完全な食い違いとも違う不可思議な交差が面白い。相乗効果を生み出すような。

たくさんくっつき合いながらたくさん話もした。何を口にしていいかわからないような無言の時間と、話しても話しても足りないようなお喋りの時間。今までの相手について話してしまうのは冷静に考えるとあまり愉快なことではないような。Tさんからは全くそんな話はでてこない。かろうじて、仕事と家庭どちらも自由がきくってことだけ。

あちこち体を探られる。いろんな体勢で。3回目までは何もなかったのに。実はかなり?どこまで曝け出していいものか。どこまで叫んで?

まだ緊張する。真っ白い天井が四角く切り抜かれた、まるでミニマルアートのような眺め。ベッドに仰向けでいながら、どこでもない場所にいる感じ、と呟く。あまりに長い時間、でもあっという間の時間。吉田健一の「時間」というのを読んだけどどんな話だったか。たぶん一読では分かりそうにない話。

最初に会った時行ったバーで、やっぱり一緒に飲んでるのが楽しいなと思いながら。エアコンの風が直撃する席で冷たくなった、少し開いたデザインの背中にあてた手がぬくぬくする。地下鉄の改札を入って一度手を振ってエスカレーターを降りる、見えなくなるところまで目の片端にいたような。それも重なって困る。

駅に降り立ったらけっこうな雨降り。シルクのワンピースを濡らしてしまいながらハイヒールに最後の力。風邪引いたら困るとさっさと脱ぎ捨てて、こちらからラインしてしまって、チョコレート齧って、歯磨きして、顔だけ洗って寝る。