Tokyo Sta.

アメリカのドラマで笑い転げたのに見終えたらしんと部屋は静まりかえっている。部屋の隅に50センチほどの鏡が立て掛けてあって事あるごとに自分の姿を確認する。足だったり体だったり顔だったり。全身を映すほどの大きさはないから。さっきまで笑っていた顔がしんとした部屋の中で怪訝な表情をしている。これは表情だろうか。虚な目が何かを探しても何も見つからないような。そこに映っているのは紛れもなく自分のはずなのに、まるで自分ではないみたいな。胸の奥に重さを感じる。おもりが積み重なりふっとため息を漏らす。重さに耐えかねて。

ロマンチックコメディとでもいうんだっけ。恋愛しているから恋愛ドラマを見るなど間が抜けているがコメディの名にふさわしい、笑って泣けて重たい。

以前会った調香師が言っていた、自分の胸の中に一吹きして自分だけで香りを味わう。気分を変えたくて既に寝巻きの胸の中にマレシャッラを。咽せるほどの香り。

明日の予約もなし。明日どうなるかはわからないけど、どこか病んだ部分を嗅ぎつけられてしまうからリピートする人もいないんじゃないかと、勘繰るのは生産性がない。痴女のビデオでも見て語彙を増やそうかと思ったものの文章を書いている。

昨夜のお店はよかった。ただ気分を変えたくて急に誘ってみた。甘えも含みながら。窓ガラスについた水滴を見ていた。外は雨。でもここは内側でさらにTさんの手に守られているように握った手の温もりを感じる。ふとおでこを触るから何かと思えば、眉間に皺が寄っている。何かを考えている時だったか、思い出している時だったか。何かが起きる合図だというTさんの言葉はワインの中にふわふわ浮いているみたい。

慣れない東京駅でどこへ行けばいいのか、銀の鈴と言われて地図で探す。待合所に座っている人たちはこれから遠くへ行くんだろうか。あまり鈴の真ん前にいるのも落ち着かなくてソワソワしていたらすぐにやってきた。

どこ行くんですか?、だったかどこ行くの?だったか。

雨に濡れずに行ける場所

水滴も消えて胸の中にいる。ぎゅっと抱き締められる。誰もいない東京駅、ではない。遅い時間とはいえ改札の前だからぱらぱらといた。それでもTさんの記憶の中では誰もいないことになっているようだ。改札の脇のアイスクリームの自販機で数人の男女がワイワイ騒いでいた。飲んだ帰りに食べたくなったのかもしれない。見送るか聞かれ、いいですと断って改札を抜け手を振る。夜は終わった。次の日も雨だった。セックスした翌朝みたいとラインしたら、ずっと繋がってる感じだったと。

まるで同じことを考えているみたいに

あのハグは特別だったと言われてみてそうかと思う。