渋谷

赤ワインの残るグラスの落とす影を見ている。ワインによってグラスが違うからTさんもそれを見て特別きれいだねと言う。赤い液体の影が揺れてる。入ったときはまだ明るかったけどもうすっかり夜。ビルの8階にある店内にも薄い闇。テーブルの向こう側にいるTさんの顔にも薄い闇。私の顔もそう見えているのだろうか。何度も来ているのにあんな壁の絵はあったろうかと目を凝らす。抑えた照明の中でテーブルの上のものだけは輝いている。ワインのためにある料理。香ばしい鰻の串焼き。これはワインを飲みたくなる、ワイン持ってきてってもう既にあるけど、と笑い合う。例によって蘊蓄を語り出す。まだ若そうなソムリエさんに鎌をかけている。どれもおいしかったし話しぶりからしてもしっかりとしたソムリエになりそう。Tさんとワインを飲むのは格別に楽しい。
お店が開くまで少し時間があったので渋谷の街を手を引かれるままに遠回りして歩く。夕刻、なんだかわからないが若者で賑わっている。ああいう若い子は少し怖いななどと言っているがうん十年前は毎日のように来ていたという。

何しに?
暇だったからじゃないの

どんな若者だったんだろう。お昼から夜遅くまで、とてもたくさん話をしたけど、名前が本名ではなかったことに少しがっかりする。名前だけは教えてもらったけど、本名のほうがしっくりこないことが可笑しい。さゆり、はいい名前。今はあんまりないと言われ確かにそうかも?名前負けしそうって。Tさんの言うことは的確でしかも男女にありがちなズレというものを感じない。なんなんだろう。
「パリ13区」中国移民?でセックス狂なエミリーが働いている中華料理屋で同僚に30分だけ替わってと言ってアプリで知り合った男とセックスする。戻ってきて店内を優雅に踊りながら移動するスローモーション。から配膳されるお盆を手にするシーン。ダンスはどうやら夢想でもなんてきれいで美しいシーン。ただ一度きりのただ喜びのための。
いつもそのお店ではデザートが欠かせない。甘いデザートと甘いデザートワインで夢心地。でも今日はもういい。それだけで通じる。
もう何人としたのかも何回したのかもわからないけど、そのどれとも違う。まるで映画の中のセックスみたい。つまりラブシーン。愛のシーン。あくまで印象だけど

昨日は待ち合わせで会えた時から二人の幸せな気持ちがずっと積み重なっていくようだった

やっぱりこの人は的確

また一緒にワインを飲みたい