12月

仕事に行っても何も起こらない日、事務所内はぽかぽかしているが外に出たらどんよりと曇り空。雨でも降りそうな。冷たい風も吹いている。いつの間に冬になったのかと思う。天気予報を確認したら雨は降らなそうだったので予定通り上野方面に向かう。何せずっと座りっきりだった。まだ3時だというのにさっさと日が暮れてしまいそうで急ぎ足になる。ただ歩いてみることで体も気持ちもさっぱりするんじゃないかと。

最近走ることをし始めて走りやすい服装も揃えてまだ数回しか走ってないけど鬱屈はもっと抱えていたほうが走ることで解消しようなんて思わないほうがいいじゃないかと三島由紀夫の評論集を読んでいたら早くも疑いが生じ始める。酒と愛ともろもろにうつつを抜かして一つぐらい爽やかなことをしてもいいか。

すっかり木々も冬景色に近づきつつある中に濃いピンクの花が植え込みの中ぽつんと咲いていた。あれをTさんならじいっと見るに違いない。以前美術館の窓から外をじいっと見てから赤い花がちらっと見えるのをえっちぃ、と一言呟いたように。

書いててなんだかわからなくなる。東京駅の丸ノ内線改札で手を振ってから階段を降りる前柵越しに手を伸ばすから掴みに行って目を見つめながら何やら別れ際の言葉を交わす。そんな言葉も消えていってしまう。もう酔いも醒めていたと思うけど。手を離して数歩進んで振り返ったらまた手を伸ばしているから掴みに行って、もう覚えていない。正しい言葉がわからないけれど、とか何とか。それは今日のデートで一番真剣な言葉に思えた。

昨日の夜さゆりさんを手離してしまった気がして、と翌日のラインで、また会えるのか心配してくる。来週また会えることになってるのに、きっとあの手を離したところだけ切り取ってしまったんだろう。私は涙を浮かべてもないのに霞んだ夜の星のような灯りと消えそうになる温もりと言葉を何度も思い返す。