日の名残り

夕陽の眩しさに時々目を逸らし既に灯りのつき始めた港の風景を眺めたりしている。もうすぐ沈むほらあと一分で。ほんとにみるみるうちに沈んで太陽の形もなくして消えていった。

これからが凄いから。透き通るように快晴の空。遠い山並みの稜線までくっきりと

もう仕度しないと。この後の晩餐に既に頭は向かっている。夕刻から夜へと変わる時間。

ほら見て!太陽は沈んだのに水平線の上の赤はますます濃くなる。グラデーションを刻々と変えて。仕度を済ませる頃、Tさんは興奮して喋っている。凄い赤。何なのこの赤。私の頭の中を一瞬天城越えが過ぎる。燃えるような赤。もう夜は訪れているのに。妖しい。残照と言うにも言い足りない。燃えてるみたい。

誕生日の前日。午前中部屋に入った時は白い壁が眩しいくらいに明るかった。背中に熱いくらいの陽射しを浴びて交わった。そこからもう夜。飲み喰らうために急いで部屋をあとにする。タクシーからホテルが見えた時Tさんが僕たちがいた部屋は灯りは消えてると意味の分からないことを言う。

あとどれだけ会えるだろうかと誕生日当日になって思う。そんな長いこと会えない気もするしお互い年寄りになっても会ってる気もする。

四十三歳。