絶望

通り越しても

すれ違っても

見失うもの

 

変わることは楽しいことでもありながら恐ろしい。目の前にいる人が、もうあの人ではなく。繋いだ手が冷たくて少しゾッとする。どこに行くの?変わらない問いかけ。

ひと月ぶり近い。タチの悪いウイルスに罹っていたらしい。カフェみたいなイタリア料理店のテラス席で向かい合う。多少病み上がりの印象はあるけど、じっと見つめる目と声にもエネルギーを感じられる。変わらない目、変わらない会話。眼差しの交差をまぐわいと言うんだっけ。何を恐れていたのか。治りかけていたところに合併症で麻痺が出て、笑うのが辛いと言う。見た感じではわからないけど相当な違和感があるみたい。ピカソゲルニカのように。引き裂かれてる感じ?

舌の感覚が異様に鋭くなったり。コロナの後遺症で味覚障害とかあるから

それは絶望だよ、と怖いような真剣な顔になって言う。

味わえなくなったら。どれだけ世界が灰色になるか。味を共有できなくなったら。

私のことも味わえなくなるかもしれない。

ワインを飲んで飛び出すひとつひとつの言葉が消えていくかも。

不意打ちのように回復してきた欲望の話。欲動。そのエネルギーも感じたのかも。

体に触れてくる。きっと近いうちに

すっかり暗くなった丸の内の本通りを散歩する。冬のイルミネーションの時歩いた記憶。頭の片隅にあった中谷ミチコの彫刻を見つけて二人してはしゃぐように見る。移動すると顔が追いかけてくるように見つめてくる。裏側には青い鳥。自分で見にきたとしてもこんなライトアップされた夜に見ることはなかっただろう。

絶望。何もかもなくなる前の希望。