さまよう物語

矛盾に満ち、野蛮で、不安定で、漂うような物語のことを、プリニウスは「さまよう物語」と呼んだ(『博物誌』第五巻三十一章)。それはまた、最後の王国でわたしが実践する、王のごとき人生でもある。

パスカルキニャール「静かな小舟」

 

履き慣れないサンダルで歩き回った後の足に水脹れができている。その足の指は昨日の痛みを記憶している。潰してはいけない嚢。脹脛や内腿には何箇所か青くなっているところがある。もっといろんなところを噛まれたけれど見える範囲ではそれだけ。以前「調教された」と言ってたのはM女性にということだろうか。そこまでは聞かなかった。

その青い痕を残したセックスはあまりに与えられたのでなんだか信じられないような気持ちになる。頭を抱えるように抱きしめられたのもその腕の力が初めてだったから少し面食らった。与えられたと感じるのは自分が欲しいものだからでそれほどまでに丁寧に扱われたことが満ちることなのにやっぱり驚きを感じてしまう。

旅を挟みひと月ぶりでなかなか会えなかったことに対し不満をぶつけていた。他の肌や舌を感じていてもセックスはしていない。じゃあ何をもってセックスというのか。とりあえずしてない。どれだけ精液を浴びても、どれだけ濡れても。どれだけ自分でしても。Tさんのものしか舐めない。

ずっとセックスのことばかり考えてた。静かな小舟の中で。