atmosphere

東京駅前の商業ビルの上、金曜の夜の始まりのほうの時間でこれから確実に騒々しくなることが決まっているレストラン階。ネオンでも煌めくんじゃないかと思う。それぞれの店の境界も曖昧なオープンフロアだから色々な食べ物や匂いや音も混ざり合う。通路に並んだソファー席に座れて横を人が通り過ぎるけれど座り心地は良く安心する。目の前にはTさんがいて横は誰もいない。テーブルはおいしいものが運ばれてくるのを待っている。

いつの間にかどこかで音楽が鳴り始めた。席はみな人で埋まりざわめきで満ちた空気も気にならない。ワインの酔いも回ってきてるのか。

お腹も満たされ散歩に出かける。12月の始まりの日。イルミネーションの中手を繋いで歩いて水溜りほどのスケートリンクや森の中に見える灯りのような小さなお店や大きなまるいリースの中に設られたブランコ、馬のいないオモチャのようなメリーゴーランドも何か相応しい置き物のように思える。暖かい一色のイルミネーション。マチュア。成熟した、円熟したという意味の言葉だという。華やいだ雰囲気でも皆んなで夢を見てるように落ち着いている。

途中のカフェで、デザートを食べていなかったのでケーキとコーヒー。今日のTさんは調子がいいみたい。魔法のように言葉が出てくる。隣では年配の女性二人が絶え間なくお喋りしているけれど店内に流れるBGMに耳がいく。周りにはたくさんの人がいるのにまるで気にならない。その空気のようなBGMがとても心地いい。会い初めの頃銀座のバーに連れていってもらった時もただ夢のような時間だったけれど。アトモスフィアとでも言うのか。自然に抱き合っていたり私の匂いを吸い込んでいたりする。家で付けるのを忘れてデパートでひと吹きしてもらった香水がいつまでも香っていて、シャボン玉の中にいるみたいに包まれていた。