a piece of cake

混じり合っているように思える。全く別個の物体なのに。体なのか心なのか、どこかの一部になっている。苦痛でも快楽でもなく、ただ不可思議。ただそこにいるのに隣にいないのが不思議、といつか送られてきたように。何枚か数えもしなかったプリントたちを、…

錦糸町

錦糸町。という言葉だけでよみがえる。ホテル街。バリアン。駅ビルの寿司屋から見えたスカイツリー。10年に一度ともアナウンスされる寒波に吹き飛ばされそうな夜帰宅して翌朝を憂いながら眠りにつく。道路が凍りませんように。心も凍りませんように。暖かい…

intimate

鏡に映った自分を見ているとこの人間は誰とも親しめないだろうと思う。誰とも親しむことはないだろう。腕を宙にあげてゆっくり動かしてみる。現代舞踊のような、何か瞑想みたいな。鏡を見ている時、単なる見るという行為が自分を覗き込むことになる。水面で…

void

すり替えられたグラスの 間に挟まれたチョコレート クモの巣の隙間から 滴る水音 七回連続回転した パンダの目の縁 不可侵条約を過信した 岩は砕け散り 転がってきた石を拾った 手の中の 石は流星 だったかつて卵を割ろうとして めり込んだ親指を咥え 割り込…

ギフト

潮が引いた状態だと考えてみる。波は届かない。砂地が露わになる。欠けた貝殻や石、流木、海の藻屑。潮の満ち引きを信じること。 体がぎいぎい言うようで、頭も軋む。昨晩薬を飲み忘れたのかもしれない。仕事はお茶引き。一駅歩いて帰る。初めて歩く道。古い…

silence

NHKで坂本龍一のピアノとLINEが来てテレビをつける。美しいモノクロの映像に痩せ細った眼鏡の男。ピアノ曲が好きだと前に言ったから教えてくれたのかもしれない。澄みきった音にただ耳をすましてみる。美しいけれど凄みを感じるのはこの痩せ細った体から発せ…

宝石

大晦日。いつもなら紅白歌合戦でも見てるところが何だかしんみりしている。音楽もいつの間にか止んで本棚から思い出すように取り出した分厚くて飛び切り美しい本を読んでいたりする。お蕎麦は昼に食べたから適当につまみと日本酒を燗にして誕生日に従兄弟の…

日の名残り

夕陽の眩しさに時々目を逸らし既に灯りのつき始めた港の風景を眺めたりしている。もうすぐ沈むほらあと一分で。ほんとにみるみるうちに沈んで太陽の形もなくして消えていった。 これからが凄いから。透き通るように快晴の空。遠い山並みの稜線までくっきりと…

12月

仕事に行っても何も起こらない日、事務所内はぽかぽかしているが外に出たらどんよりと曇り空。雨でも降りそうな。冷たい風も吹いている。いつの間に冬になったのかと思う。天気予報を確認したら雨は降らなそうだったので予定通り上野方面に向かう。何せずっ…

私は自分を彫刻してきた

私は自分を彫刻してきた 何か言い表わさなければならないとしたら。 マーク・マンダース展の図録を見返していたらふと浮かんできた。 完璧に構築された彫刻作品とインスタレーションの空間。 彫刻には平面作品と違う憧れを持っている。手でこねられた、打ち…

again and again

離れると愛おしいねと水遊びのように繋がって揺れて離れた時。どんな風とも違う風呂場に響く音。多分離れると寂しいような意味だろうけど、口に上るままの言葉は胸に直接飛び込むようでいつまでも響く。今までの何とも違うから今自分がどんな状態にあるのか…

grey

つい赤いものに目がいってしまうけど赤ばかり撮りたい訳じゃない。密やかに息づくもの。上下する胸や静かな寝息のようにひっそりと佇むもの。ふっと漏れるため息が死を予感させる。死んだ魚を撮っていた時わたしはその形を見ていたのだろうか時間や記憶を見…

早稲田

自分たちが裸であるということ。肉を触り確かめ合うこと。見つめる瞳に自分が映っていること。声が互いにこだまして言葉が胸に刺さること。 こんなに急な階段を登っただろうかという記憶の不一致と光と木々の中の白い建物をぼうっと見ていたら向こうからやっ…

10月

秋が深まるように気持ちも深まっていく。愛という言葉を言い出したのはだれ? 日本語で愛というのはなんて言うのだろう。英語みたいにI love you とはいかない。好きなものはたくさんあっても愛するものは限られている。慈しみ、哀しさ、憎しみの裏返しな激…

六日目

清廉潔白の何としぞ山に茸を取りに行くか ふるへてふるへてふるへてfの腰らへん 五日目の夜に取り出だしてみれば遥かなる絶頂 踏まれたく思ふひととのふいになる約束など最初から 赤きものPCに繋いで充電されるのを待つてゐる 赤光を開いて数ページ 伏せるカ…

光と声

何を恥じることがあるのか しかし恥じるのだ 雨に打たれ、熱いシャワーを浴びる時も 天雷の鳴り響く夜に 照らし出される顔のように 青白く、こめかみは脈打ち こぶしを握った手の開く時 薔薇の匂いが通り過ぎて 血が伝ったような気がした 噛み締めた塩気の …

体を触る。触れられればいいのに。あなたの手で。刻一刻と変わっていく体を、たどっていく。乳房は、なんと柔らかいことだろう。何のために。ふくらみのやさしさ。女同士が口づけを交わす。唇が辿ったかもしれない、稜線を。眠りの中に忘れてしまった、あな…

潮沫

潮沫のはかなくあらばもろ共にいづべの方にほろひてゆかむ 斎藤茂吉「赤光」 雨の朝。じっとしてると少しの冷たい空気、湿度。入院にも持っていった二頭の鹿が描いてあるクッションを抱える。物憂い。雨のせいだけじゃなく、退院してから鬱気味になっている…

葉山

ぱっくりと開いた 大きな傷口 無数の 対称ではない。非対称であることの、震え。常に揺さぶられている時間。声の振動。 並んで歩く。前を歩く、後ろを歩く、座る、手を繋ぐ、塞ぎ塞がれる、張り付く、離れる、結び解かれる。二人 作品を見ながらお喋りしてい…

9月

雨。体が鉛のように重い。違う本を少しずつ読む。映画を観に行く意思は消えた。四冊読んだところで電話。陶芸教室の先生。最後の作品を受け取りに行くのを忘れていた。いつも忘れる。雨雲を確認して重苦しく外へ出る。ひんやりした空気が気持ちいい。でも体…

絶望

通り越しても すれ違っても 見失うもの 変わることは楽しいことでもありながら恐ろしい。目の前にいる人が、もうあの人ではなく。繋いだ手が冷たくて少しゾッとする。どこに行くの?変わらない問いかけ。 ひと月ぶり近い。タチの悪いウイルスに罹っていたら…

sicut cadaver

きりきり舞い きりもみ 体ごと何処かへ 打ち寄せる しかばねの 避けられるだろうか 踏まれるだろうか あるいは鴉に まだ温い 砂のようなシーツ うとうとしている腕や背中を指でなぞる。その手首にはゴールドの華奢なブレスレットの鎖が揺れて光るのを見なが…

Remind Me Tomorrow

少しでも離れていかないで 小舟のように揺れていましょう 繋がったまま 100年だか50年だかに一度咲くというリュウゼツランが全国各地で一斉に咲いているという。5月からぐんぐん背丈を伸ばし、屋根より高いほどの場所で、赤やピンクでもない黄緑色の花。何か…

汐留

堰き止められた汐は海へと散っていく。 満たされたもの故の哀しみ 馴染みのビストロの二階、店内は見たところ満席なのに、両隣からも空間に満ちた音もうるさく感じない。目の前にいるTさんとテーブルで隔てられてはいるけどとてもスムーズに会話ができる。何…

溜池山王

マダム・エドワルダは片足を高く上げ自分のぼろぎれを見せつける。毛むくじゃらで湿り気を帯びた蛸のように蠢くぼろぎれを... 変わった作りの部屋だった。広くはあるけれど入ってすぐ右側に大きなクローゼットとその横にグラスやらコーヒーメーカーやらミニ…

moved

存在があやふやになった時書くのかもしれない。 ふわりとした時、多像のようになった時、かすれて痕が滲む時、揺さぶられた揺り動かされた時。そういえば英語で感動はmovedという。存在自体が危うい時も身が宙に浮いているように心地いい時もある。動かされ…

Tokyo Sta.

アメリカのドラマで笑い転げたのに見終えたらしんと部屋は静まりかえっている。部屋の隅に50センチほどの鏡が立て掛けてあって事あるごとに自分の姿を確認する。足だったり体だったり顔だったり。全身を映すほどの大きさはないから。さっきまで笑っていた顔…

安全な場所

ずいぶん働いた。自分は働き者かと勘違いするほど。4連勤とはいえたいした時間ではないけれど。肌に触れる、触れられるのが喜びとなる。お互いが心を許している時に。もしかしたら深く根付いた孤独というものを無意識に慰めてるのかもしれない。電車で見知ら…

白日

さよならと手を上げる。そこで記憶が終わっている ロックを外す仕草をしたその手で記憶が終わっている 手を握り一瞬強く握りしめたその感覚で終わっている 堆積した時間も刻印された時間も一瞬の風で吹き飛んでしまうのでは それでも相変わらず計り難い重さ…

恵比寿

身を引きちぎられる。半身を。からだを髪の毛を腕を皮膚を。無理矢理に微笑んで手を上げる。さようなら。引きちぎられた身ごとあなたの口で食べられてしまえばいい。そのよく味わう唇と舌で。このお酒が、舌の奥の方で味わうと違う味がするという。舌の先の…