日記

汐留

堰き止められた汐は海へと散っていく。 満たされたもの故の哀しみ 馴染みのビストロの二階、店内は見たところ満席なのに、両隣からも空間に満ちた音もうるさく感じない。目の前にいるTさんとテーブルで隔てられてはいるけどとてもスムーズに会話ができる。何…

溜池山王

マダム・エドワルダは片足を高く上げ自分のぼろぎれを見せつける。毛むくじゃらで湿り気を帯びた蛸のように蠢くぼろぎれを... 変わった作りの部屋だった。広くはあるけれど入ってすぐ右側に大きなクローゼットとその横にグラスやらコーヒーメーカーやらミニ…

Tokyo Sta.

アメリカのドラマで笑い転げたのに見終えたらしんと部屋は静まりかえっている。部屋の隅に50センチほどの鏡が立て掛けてあって事あるごとに自分の姿を確認する。足だったり体だったり顔だったり。全身を映すほどの大きさはないから。さっきまで笑っていた顔…

安全な場所

ずいぶん働いた。自分は働き者かと勘違いするほど。4連勤とはいえたいした時間ではないけれど。肌に触れる、触れられるのが喜びとなる。お互いが心を許している時に。もしかしたら深く根付いた孤独というものを無意識に慰めてるのかもしれない。電車で見知ら…

恵比寿

身を引きちぎられる。半身を。からだを髪の毛を腕を皮膚を。無理矢理に微笑んで手を上げる。さようなら。引きちぎられた身ごとあなたの口で食べられてしまえばいい。そのよく味わう唇と舌で。このお酒が、舌の奥の方で味わうと違う味がするという。舌の先の…

歌舞伎町

たぶん数人しか読んでない文章を書く。明日の天気はたくさんの人が気にするが私のことなど誰も気にしない。痛快だ。嫌な気分でいると嫌なものもよく目に入る。通りの隅を走るネズミ、赤いゴキブリ。歓楽街にお似合いな。汚いものでドロドロになるのもそれは…

飯田橋

ひりつく記憶を口の中に押しとどめて、手と皮膚の接地点に意識を向ける。よりによって不可思議なこの場所。あの人が通っていた場所。手が膝を愛撫する。伸ばした脚の緩やかな、もしくは僅かな曲線について。筋のつくる影について。関係性自体ではなくいろい…

渋谷

赤ワインの残るグラスの落とす影を見ている。ワインによってグラスが違うからTさんもそれを見て特別きれいだねと言う。赤い液体の影が揺れてる。入ったときはまだ明るかったけどもうすっかり夜。ビルの8階にある店内にも薄い闇。テーブルの向こう側にいるT…

a whole cake

盛大な勘違いにしろあの人には愛してると言えた。今はそこまで好きな人はいない。その時も別に呼び名はなかった。僕の彼女になって下さいみたいなことを言われたような気がするが、向こうはどう思っていたにしろ私にとっては特別な人。さゆりちゃんと呼んで…

銀座

同じワンピースで同じく髪をアップにして同じ銀座の違う路上でキスされる。そんなことはどうでもいいのに。朝から雨。朝食を終えた頃にTさんからラインが来る。欠けていたものが充ちる気がした。つくづく後朝の文は大事だと思う。朝までいたわけではないけれ…

setouchi

鏡に映ったその目は獲物を狙う目をしている。攻撃態勢。流れているのはいつものグールドのモーツアルト、ピアノソナタだけど。優雅ないつもの朝。あるべきものがあるべき場所にある、いつもの部屋。自分の部屋。9日間の一人旅で私はどんな目をして、海や街や…

南青山

蔦の絡まる奥まったところにあるドア。初めて来た時は開けるのに勇気が要った。この扉を開けていいものか。確か雨が降っていた。もうコロナの時期だったのか横の窓が半分開いていて雨粒がぴちゃぴちゃ跳ねるのが見えた。その時はきっと庭のほうを向いて座っ…

週間予報

いつの間にかしっかりとした雨音。Tさんからのラインに週間予報が貼ってあり雨マークだらけ。まるで梅雨みたいですねって。ほとんどごろごろ、ベッドの中。でも食べることだけ沸いてくる。ウーバーを見てカートに入れるまでして思い止まる。冷蔵庫の中には冷…

おじさん

おじさんは足を骨折してリハビリ中で引きずりながら歩いている。それでも歩くのが速くてゆっくりと思うと遅れをとる。飲みに行きたいと言うから3回来てくれたら行ってもいいと言ったらほんとに3連続で来た。連続で来るとは思わなかった。上野に〇〇っていう…

湯島

ピンク色やら黒色やら、ネオン。あの辺は昔花街とはどこの話だったろう。Tさんはお酒と飲み屋とそれに付随するもろもろに詳しい。細い裏道まで、ここを行けばどこへ行くとか方向音痴の人間はただ手を引かれてついて行くだけ。ビールと日本酒何杯かでもう手が…

ナダ

画面に映った顔は変わってないようでやっぱりどこか変わっている。確実に。老けたのはそりゃ年取ったもの。でも整っているようにも見える。ウェブカメラなんて、というかPCに内蔵のものだけど、いつ以来に使っただろう。誰も話し相手もいないような時、チャ…

contact

ちゃんとしてるように見えて、Tさんは機械に弱いのかしょっちゅうスマホトラブルに見舞われてる。アップデートしたらLINEアプリが消えて問い合わせしたりしてなんとかかんとか。よくわからないけど大変だったらしい。 ここ数日は落ち込んだり回復したり。抗…

come

重さのことを考えるたびに憂鬱になる。 自分の重さ あの人と付き合ってた時は痩せてた。なんでこんなに太ってしまったんだろう。 元に戻ったとも言えるけど 今日はお休み。外は雨。物思いにも耽るもの。 抗うつ剤のせいもあるかもしれないし。それにしたって…

徒歩2分

ぱっとしない日。指名は一人でゼロよりはマシだけどほとんど電話も鳴らず閑古鳥なお店。大丈夫なのかと思う。事務所が待機場所にもなっていて人数も多くなくお店の人もほんわかしてるのでアットホームとさえ言える。こたつみたいなテーブルにはお菓子とかパ…

mysterious #2

終わっても延々にこのままでと思うくらい。キスされたり抱きしめたり見つめ合ったり。ゴムしてるとこんな時間があるのがいい。繋がったまま。離れる時は剥がれるようだ、体が。その後もこっちおいでとくっついている。何か言いたいけど何を言えばいいのかわ…

sofa

土曜に会える予定だったのが日曜になって土曜つまり明日にはお仕事入れて日曜の夜まで耐えなければ。昨日撮ったセルフを編集しアップしてからスーパーに買い出しに行く。途中でなんだかやり切れなくなる。欲情に襲われて。セルフには意識せずともその時の自…

bolero

緊張と夢見がちの共存 何かを待っている でもその先に何があるのかはわからない 再々度の銀座にて、Tさんと会う。待ち合わせ時間より早く行ってrtで物色。大枚をはたいて買われたと思われる高級ブランドの服たち。そしてすぐにか、飽きたのか手放されたもの…

joy

ガラス瓶に入れたヒヤシンスの 水があっという間に枯れていく 花を咲かすということは それだけエネルギーを使うことなのだ ボンベイサファイアの瓶に挿したラナンキュラスは 白みを帯びて硬直している しわしわになった花弁の声のように 部屋に流れるモーツ…

Fantasia in C minor

ようやく生理も終わる。昨日遊びに行こうかなと思ったけどトイレで少量どろっと出てきてああ無理かと。代わりに銀座に飲みに行った。Tさんはいろんなバーを知っていて連れて行ってくれるので、バーもいいものだなと気が向く。以前一度来て再訪したペンギンの…

愛の渇き

アマプラで監督は知らない人だったけれど三島由紀夫原作の「愛の渇き」を見た。主演の浅丘ルリ子がお人形さんみたいにきれいでそれでいてエロくて声が素晴らしくよい。あんな声になりたい。貴婦人に相応しい。そして一歩一歩つっかえるように歩く。よろめく…

この道

明日は雨が降るでしょう。てくてく歩いた足跡も洗い流してしまうでしょう。 明日は雪が降るでしょう。歩いてきたはずのこの道もやがて見えなくなるでしょう。 風邪をひいた。私はたまにしか風邪をひかない。体調を崩すことはある。心も体も繋がって。夜にな…

bar goya

帰宅してすぐ寝てしまえばいいものを。混乱だったり余韻だったり消化しきれないもの、そんなものはベッドで眠りにつきながら小さな死の中で葬ってしまえばいいものを。 印象だけ、内なる声に耳を傾ければ慌ただしく見苦しい真似もしなくて済むのかも 隣にい…

ポチからのラインが少なくなった。ポチは犬だがワンワン鳴かない。人間の言葉を話す。懐いていた犬がそっぽを向いたような悲しさ。返信がない日があってポチ!!と怒ったら50代の女性に一晩奉仕させられていたという。挿入はしてませんというご丁寧な情報ま…

passage

passage 通りすがり 小学生の時外国から転校生が来たことがある。もしかしたら中国人や韓国人はいたかもしれないが外見であきらかに自分達と違う子、というのは初めてだった。中東かアフリカの方かよく覚えてないが髪が縮れていた気がする。どうしてそんな状…

noir

飲み干すとすかさず注がれるワイン グラスの傾げた湛えられた 溢れるのを待つ 待たれ溢れたなみなみと うねり溢れた液体の 機体の尾翼が触れそうになる 尖った骨の尻の上の 触れられる指が伸びる 大伽藍の窓のように ステンドグラス 薄い波打つカーテンの光…